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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)50号 判決

原告

後藤雄一(X1)

被告

東京都知事(Y) 青島幸男

右指定代理人

半田良樹

宮本治樹

友澤秀孝

野口健

鈴木朗

主文

一  被告が原告に対し平成七年三月七日付けでした別紙文書目録記載の各公文書の非開示決定(平成七年一〇月二三日付け決定による一部取消し後のもの)のうち債権者の印影を非開示とする部分を除くその余の部分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、東京都(以下「都」という。)の区域内に住所を有する者であり、平成七年一月六日、被告に対し、東京都公文書の開示等に関する条例(以下「条例」という。)六条に基づいて、東京フロンティア推進本部、総務局、主税局、港湾局及び清掃局の各総務課の平成六年四月一日から同年一二月三一日までの間の一般需用費のうち、会議・懇談会・懇親会等に支出された支出命令書及び起案文書(一件の支出金額が金一〇万円以上のもの)の開示を請求した。

2  右請求に係る支出命令書及び起案文書としては、別紙文書目録記載のとおり、東京フロンティア推進本部に係るもの一〇件(以下「推進本部文書」という。)、総務局に係るもの一件(五回の会議に関するもの。以下「総務局文書」という。)、主税局に係るもの二件(別紙文書目録記載の一件と文書番号六主総総第五一〇号の合計二件である。以下「主税局文書」という。)、港湾局に係るもの八件(以下「港湾局文書」という。)、清掃局に係るもの七件(以下「清掃局文書」といい、別紙文書目録記載の文書を一括して「本件各文書」という。)が存在するが、被告は、平成七年三月七日、推進本部文書については条例九条二号、七号及び八号、総務局文書については条例九条五号、七号及び八号、主税局文書については条例九条七号又は八号、港湾局文書については条例九条二号、七号及び八号、清掃局文書については条例九条二号、三号、七号及び八号の各非開示条項にそれぞれ該当するとして、本件各文書を全部開示しない旨の決定をした(以下「本件決定」という。)。

3  その後、被告は、平成七年一〇月二三日、原告に対し、主税局文書二件のうち一件(文書番号六主総総第五一〇号)についてはこれを全部開示し、本件各文書については、実施年月日、支出金額、支出内訳、出席者数、都の出席者のみを部分開示する旨決定し、その限度で本件決定は一部取り消された。

4  しかしながら、本件各文書について右開示した以外の部分(以下「非開示部分」という。)を非開示とする本件決定(すなわち、右平成七年一〇月二三日付け決定による一部取消し後の本件決定。以下、右一部取消し後の本件決定を単に「本件決定」という。)は、債権者の印影部分を非開示とする部分を除き、条例の解釈適用を誤ったもので違法である。

よって、原告は、本件決定(債権者の印影を非開示とする部分を除く。)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4は争う。

三  抗弁

1  条例九条によれば、開示請求に係る公文書に同条各号所定の情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができるとされているところ、本件各文書には、件名(会議の名称)、会議の目的、開催日時、場所、出席者、出席人数、支出金額、支出科目、債権者名が記載されており(ただし、支出命令書には会議の目的、開催日時、場所、出席者、出席人数は記載されていない。)、その非開示部分(件名、会議の目的、場所、出席者、債権者名)については、次のとおり、条例九条各号に定める非開示事由があるから、本件決定は適法である。

2  推進本部文書について

(一) 推進本部文書は、平成六年四月一日から同年一二月三一日までの間の東京フロンティア推進本部臨海開発調整部総務課の一般需用費のうち、臨海副都心開発及び世界都市博覧会(以下「臨海副都心開発等」という。)の開催準備に係る会議・懇談会等に支出された経費に関する支出命令書及び起案文書である。

(二) 条例九条二号該当性

推進本部文書には会議等に出席した相手方の氏名の記載はないが、その非開示部分を開示すると、記載されている会議等の名称、目的、開催場所、債権者名などの情報と他の情報(例えば、債権者及びその従業員等に問い合わせることなどにより得られる情報)とを組み合わせることにより、当該会議等に出席した相手方個人が識別される可能性がある。

(三) 条例九条七号該当性

臨海副都心開発等は、その現状と見通しが難しい状況にあって、種々の検討すべき課題を抱え、未だ最終的な意思決定が得られていない意思形成過程の段階にあったものであり、推進本部文書の非開示部分を開示すると、記載されている会議等の名称や目的などから、これに参加していない関係者(関係機関、地権者、進出企業等)の間に会議等の内容などについて様々な憶測を生じさせ、都民等に無用の誤解を与え、混乱を惹起することになり、臨海副都心開発等についての関係機関等との折衝が遅れるなど、都又は国等の行政内部の審議、協議及び調査等を適正かつ効率的に行うことに支障を来す場合があり、ひいては都又は国等の事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められる。

(四) 条例九条八号該当性

臨海副都心開発等は、都が国の関係機関や特別区(以下「区」という。)あるいは進出企業や地権者等と協議を重ね協力しながら進めていく必要のあるものであって、推進本部文書の非開示部分を開示した場合には、前記のとおり、関係者の間に憶測を生じさせ、無用の誤解や混乱を招くとともに、当該会議等に出席した相手方が識別される可能性があり、ひいては、関係当事者間の信頼関係を損ない、右事業の円滑な執行に支障を生ずるおそれがあり、また、将来の事務事業の公正かつ円滑な運営に支障を生ずるおそれがある。

3  総務局文書について

(一) 総務局文書は、平成六年四月一日から同年一二月三一日までの間の総務局総務部総務課の一般需用費のうち、事務事業の移管等を伴う都区制度改革に係る会議に支出された経費に関する支出命令書及び起案文書であり、五回の会議について一件の文書で処理しているものである。

(二) 条例九条二号該当性

総務局文書には相手方の氏名の記載はないが、その非開示部分を開示すると、推進本部文書と同様、他の情報と組み合わせることにより、当該会議に出席した相手方個人が識別される可能性がある。また、例えば、会議の名称を「都区制度改革について」、会議の目的を「関係省庁との打合せ」とした場合、都区制度改革に関係のある省庁は、自治省・建設省・文部省・厚生省などが考えられ、このうち自治省では大臣官房ほか三局があり、職員録によって都区制度改革についての関係者が概ね判り、特定の個人が識別されることになる(他の省庁についても同様である。)。

(三) 条例九条五号・七号該当性

都区制度改革の推進にあたっては、都と区との連携・協力及び国の協力が必要であり、総務局文書の非開示部分を開示すると、記載された会議の名称、目的などから、会議の内容について様々な憶測を生じさせ、意思形成過程にある都区制度改革について、関係機関等や都民に無用の誤解を与え、混乱を惹起するおそれがあり、都と区及び国等との協力関係又は信頼関係が損なわれることになる(五号)とともに、都区制度改革に係る意思形成に支障が生ずると認められる(七号)。

(四) 条例九条八号該当性

都区制度改革における事務の移管は、職員の勤務条件等につき関係機関との間の継続的な協議が不可欠であり、総務局文書の非開示部分を開示すると、当該会議に出席した相手方が識別される可能性があり、ひいては、関係当事者間の信頼関係を損ない、その円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるとともに、将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがある。

4  主税局文書について

(一) 主税局文書(開示された文書番号六主総総第五一〇号の文書を除く。以下も同じ。)は、平成六年四月一日から同年一二月三一日までの間の主税局総務部総務課の一般需用費のうち、税務行政に関する会議・懇談会に支出された経費に関する支出命令書及び起案文書である。

(二) 条例九条二号該当性

主税局文書には相手方の氏名の記載はないが、その非開示部分を開示すると、推進本部文書と同様、他の情報と組み合わせることにより、当該会議等に出席した相手方個人が識別される可能性がある。また、例えば、会議の名称を「税務行政の打合せについて」、会議の目的を「国税当局との打合せ」とした場合、税務行政に関係のある省庁として東京国税局が考えられ、職員録によって同局のうち都税についての関係者が概ね判り、特定の個人が識別されることになる。

(三) 条例九条七号・八号該当性

税務行政においては、課税事務及び納税事務の的確な執行上、国税当局及び協力団体等との情報交換、協議等が必要であるが、そのような意思形成過程の段階にあって、通常秘匿されるべき税務に関する情報の性質からすると、主税局文書の非開示部分が開示された場合、記載されている会議等の名称、目的などから、会議等の内容について様々な憶測を生じさせ、税務をめぐって都民等に無用の誤解を与え、混乱を惹起するおそれがあり、ひいては都又は国等の事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められる(七号)とともに、当該会議等に出席した相手方が識別されることにより関係当事者の信頼関係を損ない、また、税務行政の円滑な執行に支障を生じさせるおそれがあり、都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることになる(八号)。

5  港湾局文書について

(一) 港湾局文書は、平成六年四月一日から同年一二月三一日までの間の港湾局総務部総務課の一般需用費のうち、会議・懇談会等に支出された経費に関する支出命令書及び起案文書八件で、うち七件は東京港の改訂港湾計画の策定等に係るものであり、その余の一件は東京港に新たに建設が予定されている「新海面処分場」に係るものである。

(二) 条例九条二号該当性

港湾局文書には相手方の氏名の記載はないが、その非開示部分を開示すると、推進本部文書と同様、他の情報と組み合わせることにより、当該会議等に出席した相手方個人が識別される可能性がある。また、例えば、会議等の名称を「新海面処分場について」、会議等の目的を「関係省庁との打合せ」とした場合、新海面処分場に関係のある省庁としては運輸省が考えられ、運輸省には大臣官房ほか七局があり、職員録によって新海面処分場についての関係者が概ね判り、特定の個人が識別されることになる。

(三) 条例九条七号・八号該当性

港湾局では、第六次改訂港湾計画の策定、新海面処分場の整備計画を円滑に進めるため、国等関係機関との調整、情報収集、意見交換等が不可欠であり、各種会議や懇談会を開催して、非公式な情報を含めた意見の交換を行っているが、そのような意思形成過程の段階で、港湾局文書の非開示部分を開示すると、記載された会議等の名称、目的などから、これに参加していない関係機関等に会議等の内容などについて様々な憶測を生じさせ、都民等に無用の誤解を与え、あるいは混乱を惹起することになり、ひいては都又は国等の関係機関の事務事業又は将来の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められる(七号)とともに、当該会議等に出席した相手方が識別されることにより関係当事者間の信頼関係を損ない、各事業の円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり、また、将来の事務事業の公正若しくは円滑な運営に支障を生ずるおそれがある(八号)。

6  清掃局文書について

(一) 清掃局文書は、平成六年四月一日から同年一二月三一日までの間の清掃局総務部総務課の一般需用費のうち、会議・懇談会等に支出された経費に関する支出命令書及び起案文書七件で、うち五件は都区制度改革の中心をなす一般廃棄物の収集・運搬事務を区に移管する計画の策定に係るものであり、その余の二件は廃棄物を減量化し、資源を循環化するシステムのための新たな法制化に関する情報のとりまとめ及び国への要望等に係るものである。

(二) 条例九条二号該当性

清掃局文書には相手方の氏名の記載はないが、その非開示部分を開示すると、推進本部文書と同様、他の情報と組み合わせることにより、当該会議等に出席した相手方個人が識別される可能性がある。また、会議の名称、目的を開示した場合、総務局文書について述べたのと同様に、職員録によって都区制度改革についての関係者が概ね判り、特定の個人が識別されることになる。

(三) 条例九条三号該当性

清掃局文書の非開示部分には、法人又は事業を営む個人に関する情報が記載されており、これを開示すると、それらの者の事業運営上の地位が損なわれることになる。

(四) 条例九条七号・八号該当性

清掃事業の区への移管や廃棄物の再資源化システムの法制化については、種々の検討すべき課題を抱え、未だ最終的な意思決定が得られていない意思形成過程の段階にあって、都と関係省庁、区及び関係団体等とがさらに協議、協力して進めていく必要があったものであり、清掃局文書の非開示部分を開示すると、記載されている会議等の名称、目的などから、関係者に無用の混乱を引き起こし、各事業に関する都と関係当事者の意思形成や将来の同種の事務事業の意思形成に支障が生ずると認められる(七号)とともに、当該会議等に出席した相手方が識別されることにより関係当事者間の信頼関係が損なわれ、右各事業及び将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがある(八号)。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、条例九条が開示請求に係る公文書に同条各号所定の情報が記録されているときは当該公文書の開示をしないことができると定めていることは認めるが、本件各文書の記載内容は不知、その余は争う。

2  同2ないし6は争う。

本件各文書は、いずれも会議費等の公金支出に関する公文書であって、被告の主張する条例九条二号、三号、五号、七号、八号が予定する非開示事由に該当しないことは明らかである。

第三  証拠 〔略〕

理由

一  請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

そして、〔証拠略〕によれば、条例九条は、開示請求に係る公文書に同条各号所定の情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができるとしており(この点は当事者間に争いがない。)、同条二号には「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの」、同条三号には「法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められるもの」、同条五号には「都と国、地方公共団体又は公共的団体(以下「国等」という。)との間における協議、協力等により実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することにより、都と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれると認められるもの」、同条七号には「都又は国等の事務事業に係る意思形成過程において、都の機関内部若しくは機関相互間又は都と国等との間における審議、協議、調査、試験研究等に関し、実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められるもの」、同条八号には「監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、…その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、…関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」がそれぞれ定められていることが認められる。

二  そこで、本件各文書が右各号の非開示条項に該当するかどうかについて検討する。

1  本件各文書は、会議・懇談会等に支出された経費に関する起案文書と支出命令書であるが、〔証拠略〕によると、(一) 右起案文書は、それらの会議等の開催に伴い飲食費等の経費を支出することの決裁を求めるもので、同文書には、件名、起案日、会議等の開催日時、場所、目的、出席者、出席人数、経費額、契約方法などが記載されていること、(二)右のうち出席者については、氏名の記載はなく、省庁名、団体名などが記載されているにとどまること(ある省庁の「担当課長」という記載もされることがあるが、それ以上に、出席者の具体的な肩書や職名が記載されているとまで認めるに足りる証拠はない。)、(三)また、支出命令書は、収支命令者が所属年度、支出科目、支出金額、債権者名及び印鑑の正誤並びに支出の内容が法令又は契約に違反する事実がないかどうかを調査して発行する(原則として債権者の請求書が添付される。東京都会計事務規則四五条一項)ものであり、同文書には、件名、発行日、支出金額、支出科目、債権者名などが記載されていること、(四)被告は、原告の本件各文書の公開請求に対し、一旦は全面的に非開示としたものの、その後、平成七年一〇月一三日、新たに会議費に関する公文書の統一的な開示基準(以下「開示基準」という。)を定め、事業に関連する随時の協議、打合せの際の飲食に要する経費に関する起案文書、支出命令書等については、実施年月日、支出金額、支出内訳、出席者数は常に開示するものとし、また、会議等の名称、会議等開催の目的、都の出席者についても原則としてこれを開示するとの取扱いを決めたこと、(五)本件各文書について一部開示されたのも、右開示基準に基づいて実施されたものであることが認められる。

2  本件各文書の条例九条二号該当性について

本件各文書に会議等の出席者の氏名の記載がないことは前記認定のとおりであるが、被告は、氏名の記載がなくても、会議等の名称、目的、出席者、開催場所、債権者名などの情報と他の情報とを組み合わせることで、特定の個人が識別される可能性があると主張する。

確かに、条例九条二号にいう「特定の個人が識別され得るもの」には、当該情報によって直接に特定の個人を識別できるもののほかに、他の情報と組み合わせることにより容易に特定の個人を識別することができる情報をも含むものと解すべきであるが、しかし、会議等の名称、目的、出席者(省庁名、団体名など)が開示されることにより具体的な個々の出席者を特定、識別し得ることにならないことはいうまでもなく、現に、開示基準によれば、起案文書の会議等の名称、目的は原則として開示されることとされており、それらの開示が必ずしも出席者の特定、識別に結びつくものではないと考えられていること、また、被告は、会議等の開催場所や債権者名を開示すると、債権者やその従業員等に問い合わせるなどして、出席者を識別することが可能になる旨主張するが、そのような可能性が皆無であるとはいえないとしても、日々多数の顧客に接している債権者やその従業員が必ずしも特定の会合の出席者を特定、識別できているとは限らないし、少なくとも、本件においては、右のような方法で特定の個人を識別し得ることについての証明はないことからすれば、被告の前記主張は採用することができず、他に本件全証拠を検討しても、本件各文書の非開示部分に条例九条二号に該当する情報が記録されていると認めるに足りる証拠は存在しない。

なお、被告は、会議の名称、目的を開示すると、例えば関係省庁の部局が特定され、ひいては関係者が概ね判明し、特定の個人が識別されることになる旨主張するが、仮に関係省庁の部局が特定されるとしても、そのことから直ちに具体的にその会議等に出席した個々人が特定、識別されるとは考え難く、被告の右主張も採用することができない。

したがって、本件各文書の非開示部分に条例九条二号に該当する情報が記録されていると認めることはできず、同号に該当することを理由に本件各文書の開示を拒否することはできないといわざるを得ない。

3  本件各文書の条例九条七号該当性について

前記認定のとおり、起案文書には件名、会議等の目的、出席者(省庁名、団体名など)が、支出命令書には件名がそれぞれ記載されているものであり、その件名、目的、出席者の記載から、当該会議等がいかなる事務に関しいかなる省庁、団体等との間で行われたものであるかは明らかになるといえるが、それ以上に、本件各文書が当該会議等の内容についてまで記録しているものでないことは明らかである。

被告は、これらの起案文書及び支出命令書が開示されると、関係者の間に様々の憶測を生じさせ、無用の誤解を与え、混乱を惹起することになる旨主張するのであるが、極めて抽象的であって、具体的にどのような憶測が生じ、誤解を与え、混乱が生じることになるのかが必ずしも明らかでないのみならず、そもそも会議等の内容が記録されているわけではない本件各文書が公開されたからといって、その主張のような事態を招来し、意思形成に支障が生ずることになるとは通常考えにくいというべきであるし、本件においては、そのような混乱等が生ずる可能性があることを裏付ける立証もない。なお、被告の右主張が、本件各文書に係る会議等の開催自体がすべて秘密であって、これを秘匿する必要があるとする趣旨であるとしても、本件においては、全証拠を検討しても、それら会議等の開催自体を秘匿しなければならない具体的な必要性(会議等の名称や目的すら明らかにしてはいけない客観的な理由)を裏付ける事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件各文書の非開示部分に条例九条七号に該当する情報が記録されているとの被告の主張は採用することができず、同号に該当することを理由に本件各文書の開示を拒否することはできないといわざるを得ない。

4  本件各文書の条例九条八号該当性について

本件各文書の非開示部分を開示した場合に、関係者間に憶測を生じさせ、無用の誤解や混乱を招く旨の被告の主張が抽象的であって、裏付けとなる立証を欠き、採用できないことは、前示のとおりである。また、被告は、本件各文書の非開示部分を開示すると、会議等に出席した相手方が識別され、信頼関係を損なうとも主張するが、既に条例九条二号該当性について検討したとおり、右非開示部分を開示したとしても、必ずしも当該会議等に出席した特定の個人が識別されることになると速断することはできないというべきであり、被告の右主張も採用することができない。もっとも、起案文書には出席者として省庁名や団体名などが記載されており、個々の出席者までを特定、識別することはできないとしても、出席者によっては、会議等に伴う飲食費等が公開されることに関して、必ずしも好意的な感情を抱かない者もないではないといえようが、だからといって、本件各文書が公開されることにより、当然に当事者間の信頼関係が損なわれる事態になるとまでいうことができないことは明らかである。その他、本件全証拠を検討しても、本件各文書の非開示部分を開示することにより、条例九条八号にいう「関係当事者間の信頼関係が損なわれる」とか、「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれ」があるとか、あるいは「都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずる」との事情があることを認めるに足りる証拠は存在しない(かえって、〔証拠略〕によれば、被告は、平成七年七月ころ、毎日新聞の条例に基づく公文書の開示請求に対し、平成五年一〇月一二日から同年一二月一七日までの間の東京フロンティア推進本部の会議等に支出された経費に関する起案文書を全面開示していることが認められる。)。

したがって、本件各文書の非開示部分に条例九条八号に該当する情報が記録されているとの被告の主張は採用することができず、同号に該当することを理由に本件各文書の開示を拒否することはできないといわざるを得ない。

5  総務局文書の条例九条五号該当性について

被告は、総務局文書について、条例九条五号にも該当する旨主張するが、条例九条五号は、「都と国等との間における協議、協力等により実施機関が作成し、又は取得した情報」と規定していることから明らかなように、国等との協議、依頼、照会などその協力関係ないし信頼関係に基づいて作成され、取得された情報について非開示とすることを許容しているものであるところ、総務局文書である起案文書と支出命令書の内容は、前記認定のとおりであって、これ自体は国等との協議、協力等により作成したものでも、取得したものでもないというべきであるから、被告の右主張は、その前提を欠き失当であるといわざるを得ない。

なお、仮に、それが条例九条五号にいう「情報」に当たるとしても、会議の名称や目的などが開示されると、具体的にどのような憶測を生じさせ、無用の誤解を与え、混乱を惹起することになるのかが明らかでないばかりでなく、本件において、そのような混乱等の可能性があることを裏付ける証拠が存在しないことは、前示のとおりであって、総務局文書の非開示部分が条例九条五号に該当すると認めることはできない。

6  清掃局文書の条例九条三号該当性について

被告は、清掃局文書について、条例九条三号にも該当する旨主張する。しかし、被告の主張する法人又は事業を営む個人に関する情報が何を指しているのか必ずしも定かでないが、清掃局文書の非開示部分を開示すると、会議等に出席した関係事業者が特定される可能性があるという趣旨であるとすれば、仮に、都との会議等に出席したことが明らかになったからといって、その者の「競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれる」とは通常考え難いのみならず、本件においては、清掃局文書が公開されることにより、法人又は事業を営む個人の右のような地位が損なわれることの立証は全くないのであって、被告の右主張は採用することができない。

したがって、清掃局文書の非開示部分に条例九条三号に該当する情報が記録されていると認めることはできず、同号に該当することを理由に清掃局文書の開示を拒否することはできないといわざるを得ない。

7  以上検討したとおりであって、本件各文書の非開示部分はいずれも被告主張の非開示条項に該当しないというべきであるから、これを開示しなかった本件決定(債権者の印影を非開示とする部分を除く。)は違法であり、取消しを免れないというべきである。

三  よって、本件請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 岸日出夫 徳岡治)

文書目録

東京フロンティア推進本部、総務局、主税局、港湾局、清掃局の各総務課に係る平成六年四月一日から同年一二月三一日までの間の一般需要費のうち、会議・懇談会・懇親会等に支出されたものに関する次の1ないし5に掲げる支出命令書及び起案文書。

1 東京フロンティア推進本部に関するもの

文書番号 六東臨総第一〇三号(会議開催日 平成六年 五月一九日)

同 第一五一号( 同 年 六月 六日)

同 第二〇七号( 同 年 六月二九日)

同 第二三〇号( 同 年 七月一四日)

同 第二五〇号( 同 年 七月二八日)

同 第三一一号( 同 年 八月二五日)

同 第三四五号( 同 年 九月一四日)

同 第四〇六号( 同 年一〇月一四日)

同 第四三七号( 同 年一〇月二四日)

同 第四八三号( 同 年一一月二四日)

2 総務局に関するもの

文書番号 六総総総第三三六号(会議開催日 平成六年 六月 一日)

( 同 年 六月 三日)

( 同 年 六月 七日)

( 同 年 六月一〇日)

( 同 年 六月一三日)

3 主税局に関するもの

文書番号 六主総総第三三五号(会議開催日 平成六年 八月三一日)

4 港湾局に関するもの

文書番号 六港総総第七六号(会議開催日 平成六年 四月二二日)

同 第六〇一号( 同 年 八月一八日)

同 第六一八号( 同 年 八月一六日)

同 第七五三号( 同 年 九月二〇日)

同 第九〇〇号( 同 年一〇月一三日)

同 第九七六号( 同 年一一月 八日)

同 第九八七号( 同 年一一月一〇日)

同 第一〇〇三号( 同 年一一月一七日)

5 清掃局に関するもの

文書番号 六清総総第二三三号(会議開催日 平成六年 六月二七日)

同 第二三四号( 同 年 六月二九日)

同 第三四五号( 同 年 八月 二日)

同 第三六五号( 同 年 八月 九日)

同 第四一八号( 同 年 八月二九日)

同 第四一九号( 同 年 八月三〇日)

同 第五七〇号( 同 年一〇月二〇日)

以上

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